最終更新日:2025年11月2日
-WBGTや基準値を説明するとともに測定の注意点や活用法を解説します-
はじめに
ここ数年、職場の熱中症による死亡者が30人を下回ることなく推移しています。
厚労省も一定の条件を満たす事業場の熱中症対策を義務化するなど対応を強化しています(事業場とは?)。
厚労省が推奨する熱中症対策の一つにWBGT(Wet Bulb Globe Temperature)の実測が含まれており、聞いたことのある方も多いかもしれません。
熱中症対策が義務化される事業場の条件にもWBGTが記載されていることもあり、WBGTの理解と職場での実測は欠かせません。
ここでは、まずは熱中症の理解を深め、次にWBGTについて理解した上でWBGTをどのように活用するのか順を追ってご紹介したいと思います。
熱中症とは
熱中症とは高温・多湿な環境下において、体内の水分及び塩分バランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻するなどして発症する障害の総称、と定義されます。
つまり、熱中症発症リスクのある環境に置かれると必ず発症するわけではなく、高温多湿な環境下で熱ストレスに人体が代償しきれなくなった場合に発症します。
熱中症発症に至るには様々な因子が関与しているため、気温(室温)が高いからといって必ずしも熱中症を発症するわけではないのです。では気温以外の因子も考慮した熱ストレスの評価指標はないのでしょうか。
そこで登場するのがWBGTです。
WBGT値の計算式と単位、測定にあたっての注意点
WBGTはWet Bulb Globe Temperatureの略で、一般的に「ダブリュー ビー ジー ティー」と読まれます。
WBGTは、暑熱環境下での熱ストレスの評価を行う暑さ指数です。
前述のように、熱中症に関与する因子は気温だけではありません。そこで、熱中症発症因子のうち環境因子を熱中症発症に寄与する度合いを重みづけして計算した値がWBGTです。
実際には測定器が自動で計算してくれるのですが、何を計測しているかはご理解いただく方がよろしいかと思います。
算定式は、
①屋内の場合及び屋外で太陽照射がない場合: 0.7×自然湿球温度+ 0.3×黒球温度
②屋外で太陽照射がある場合: 0.7×自然湿球温度+ 0.2×黒球温度+ 0.1×乾球温度
と表されます。
自然湿球温度と黒球温度(太陽照射がある場合は乾球温度)の2つ(太陽照射のある場合は3つ)の温度を足し合わせた値ですので単位は℃です。
※自然湿球温度は湿度の影響、黒球温度は輻射熱、乾球温度は気温を反映します。
ここで、測定にあたって注意点がいくつかあります。
①測定器は日本産業規格(JIS規格)に適合した黒球付きのものを使用してください。
JIS規格に適合していないものや黒球のないものでは正確な値を評価できない場合があります。
②労働者が作業を行う場所で測定を行ってください。
例えば、ビルの屋上(太陽照射のある日向)で作業を行い、屋上の脇に休憩場所として日除けのためのタープやテントが設置してある(日陰)場合を考えます。
上記の式からお分かりのように、日向部分と日陰部分ではそもそもWBGT値の計算式が異なります。作業中の熱中症リスク評価を行うのであれば労働者が作業を行う日向で計測を行う必要があります。もちろん、日向での測定と合わせて日陰部分でも測定を行うことは全く問題ありませんし休憩場所としてどの程度熱中症リスクを低減できているか数値で確認できるのですが、日向部分で測定を行わなければ作業中の熱中症リスク評価はできません。
上記の屋上の例でも、日向では作業は一切行われず、日除けの設置された日陰部分でのみ作業が行われる場合は日陰でWBGTを測定する、ということになります。
測定したWBGTの補正
前述の算定式から計算したWBGTは必ずしもそのままで使用できるものではありません。
労働者の着衣の種類によっても熱中症発症リスクは変動します。
そこで、表1のように着用している衣類に応じて、算定したWBGT値を補正する必要があります。
表1 衣類の組み合わせによりWBGT値に加えるべき補正値(厚労省 職場のあんぜんサイトより引用)

補正した測定値と比較するWBGT基準値
補正したWBGT値は、身体作業強度、暑熱順化に応じて表2のような基準値が提示されています。
労働者の作業強度が強ければ熱中症発症リスクは高まりますし、暑熱順化が進んでいない場合はやはり発症リスクが上がります。
表2 身体作業強度等に応じたWBGT基準値(厚労省 職場のあんぜんサイトより引用)

WBGTを活用するメリット
では、実測したWBGTはどう活用するのでしょうか。
WBGT値を把握し基準値との比較でリスクがあると判断された場合は、ミストシャワーや冷房設備、熱源と作業者の間に遮熱板を設置するなどの作業環境の改善につながるケースがあるかと思います。
その場合、日による変動もあるものの、WBGT値を再計測することで対策の効果をある程度評価することが可能です。
また、実測したWBGT値と基準値を比較することで、表3のように適切な休憩時間設定の目安とすることが可能です。
表3 熱中症予防対策のない場合の休憩時間の目安(厚労省 働く人のすぐ使える熱中症ガイドより引用)

まとめ
WBGT値は実測値を補正し、作業強度等に応じた基準値を適用することで熱ストレスの評価を行います。
WBGTを活用することで熱中症リスク評価のほか、作業環境管理や作業管理にも役立てることが可能です。
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