福井労働衛生コンサルタント・産業医事務所


リスクアセスメント対象物質があるかの調べ方


〜自社で取り扱う化学物質がリスクアセスメント対象物に該当するかの見分け方に焦点を絞って解説します〜

令和6年4月より職場の化学物質管理のあり方が従来の法令遵守型から自律管理へと大きく転換しました。

これに伴い、リスクアセスメント対象物質を製造し又は取り扱う事業場においては化学物質管理者を選任し、リスクアセスメントに基づいた対策を事業者自ら実施することが義務付けられました。

では、自社で取り扱う化学物質がリスクアセスメント対象物に該当するかどうかはどのように判断すれば良いのでしょうか。

リスクアセスメント対象物質かどうかの調べ方

リスクアセスメントを義務付ける条文は労働安全衛生法(安衛法)57条の3第1項になります。

安衛法57条の3第1項ではリスクアセスメントの対象を安衛法57条1項の政令で定める物及び通知対象物と定義しています。

安衛法57条1項の政令で定める物というのは表示対象物と呼ばれており、該当物質を入れる容器にラベル表示が義務付けられているのですが、実は通知対象物(安衛法57条の2でSDS交付が義務付けられている物質)と全く同一物質です。

そう、表示対象物と通知対象物は一部の物質で裾切値、つまり含有濃度がその値未満であれば規制対象外となる値が異なるものの、包含する物質は全く一緒なのです。

ここまでまとめると、リスクアセスメント対象物質とは表示対象物(=通知対象物)ということになります。

さて、では自社で取り扱う化学物質が表示対象物(通知対象物)に該当するかどうかはどう判断するのでしょうか。

まずは容器のラベルを確認してください。ラベルにこれらの絵表示があった場合は表示対象物である可能性があります。

ですが、表示対象物としての義務はないのにラベル表示をしてくれている場合もあるので、これだけではまだ判断できません。

絵表示つきのラベルがあった場合は購入元に問い合わせて製品のSDS(安全データシート)を取り寄せてください。

SDSが手元に届いたら、巻末近くの「15.適用法令」の項目を確認しましょう。

適用法令の項目に「労働安全衛生法」がありますので、そこに「名称等を表示すべき危険物及び有害物」(表示対象物)あるいは通知対象と記載されていればその物質はリスクアセスメント対象物質ということになります。

では適用法令に表示対象物あるいは通知対象物として記載がなければリスクアセスメント対象ではないのでしょうか。残念ながら答えはノーです。

例えば、SDSの発行(更新)年月日が古いケースがあげられます。リスクアセスメント対象物は毎年数百物質ずつ追加され増加しています。

令和7年4月時点で約1500物質あるリスクアセスメント対象物は令和8年には約2300物質に、最終的には約2900物質まで増える予定です。

つまりSDSの版が古い場合、これら対象物質の増加を反映できておらず、本来対象物質であるにもかかわらずSDSが古いために認識できない可能性があるので注意が必要です。

SDSの適用法令欄で対象物に該当していない場合は、SDSの「成分」欄から含有物質を厚労省のサイトで検索するなどして本当に対象物に指定されていないのか確認するのが安全です。なお、弊所では含有成分毎に厚労省のモデルSDSを検索し、厚労省モデルSDS上で再度適用法令から対象物としての該当の有無を確認することを推奨します(理由はこの章の最後に補足説明します)。

ここで含有成分が対象物に該当するか調べるにあたっては、物質名ではなく、CAS登録番号(CAS RN®︎)で検索してください。エタノールの別名がエチルアルコールであるように同一化学物質を示す名称が複数存在する場合があり、名称では物質を検索できないケースが存在するためです。

ラベル表示の確認からリスクアセスメントそしてリスク低減措置までの一連の流れを、厚労省は「ラベルでアクション」をスローガンに化学物質のリスクアセスメントを周知しています。このフローを漫画で解説しているリーフレットが厚労省HPにありますのでご参照ください。

自社で扱う化学物質がリスクアセスメント対象物に該当すると確認された場合は、化学物質管理者を選任し、クリエイトシンプルなどでリスクアセスメントを実施しましょう。

※補足説明:リスクアセスメント対象物であるかないかとは無関係に、その物質が皮膚等障害化学物質に指定されている場合は労動衛生保護具の使用が義務付けられました。国のGHS分類と製品SDSといずれかの有害性情報で、「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」、「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のいずれかが区分1に該当する場合は、その物質は皮膚等障害化学物質ですので、適切な労働衛生保護具の使用が必要です。国のGHS分類は厚労省モデルSDSで確認可能です。ですので、リスクアセスメント対象物の判定を行う段階で製品SDSに加えて厚労省モデルSDSを確認しておくのは有用です。

別容器で保管したり小分けしたボトルで使用する場合の注意点

ここで注意点があります。

リスクアセスメント対象物を別容器に移して保管または小分けして使用する場合は、その場で速やかに費消する場合を除いて自社でラベル表示を行わなければなりません。例えば、購入したリスクアセスメント対象物を自前で用意した別容器で保管したり、小分けして使用する場合は自前で一定事項をラベル表示する必要があります。

関連リンク

リスクアセスメント対象物質を取り扱う事業場は作業環境測定を行う義務があるのか


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