〜水分・塩分補給から第三次産業の熱中症対策を考える〜
今回は水分・塩分補給の観点から非製造業の熱中症対策を考えてみたいと思います。
なぜ水分と塩分摂取が必要なのか
まず、なぜ水分と塩分摂取が必要なのかについて考えます。
このテーマを考えるためには、熱中症の定義と高温ばく露に対応するための人体の機構の理解が欠かせません。
熱中症とは、「高温多湿な環境下において、体内の水分及び塩分のバランスが崩れたり、循環調節や体温調節などの体内の重要な調節機能が破綻するなどして発症する障害の総称である。」と定義されます。
つまり、高体温状態はもちろん、高体温には至っていないものの体温を維持する過程で水分や塩分を大量に失った結果生ずる病態なども含めた複合的な障害を熱中症と言います。
人間には体温を一定に維持するために様々な機構が働きます。その中でも最も効果的なものは発汗です。
汗が蒸発する過程で熱を奪うことで体温の上昇を防ぐわけです。
しかし、湿度の高い環境では汗は蒸発しにくくなりますから、発汗が多量になります。
ですので、体温は何とか上昇せずにいるもののその過程で多量の水分と塩分が汗として失われます。その結果、体内の調節機能が追いつかずに脱水や電解質異常という形で熱中症を発症する、ということが湿度の高い環境ではあり得ます。
熱中症対策の水分や塩分摂取は、汗によって喪失した水分と塩分を補給するために行います。
いつ、どのくらいの量の水分・塩分を摂取すれば良いのか
では、どんな頻度でどのくらいの量を摂取すれば良いのでしょうか。
残念ながら水分・塩分の必要量を見積もることは容易ではありません。個々の熱中症環境や個人の汗のかきやすさなどによって大きく必要量が異なるからです。
このため、厚労省も、口渇感を自覚する前に適宜水分・塩分を摂取することを推奨しています。口渇を覚えてからの水分摂取では遅いからです。
水分・塩分の摂取過多にならないのか
ここで、口渇を覚える前に頻繁に水分・塩分摂取していると摂りすぎにならないか、という疑問が生まれます。
人間には体内で水分と塩分を調節する機構が備わっています。水分・塩分が過剰になれば腎臓から排出されるため余程の極端な量でない限り通常は血管内の水分が過剰になったり、血中のナトリウム濃度が異常な高値になることはありません。
水分・塩分の摂取過多になるケース
ですが、摂取過多になり得る場合があります。例えば腎疾患や心疾患があるケースです。
腎疾患によって腎機能に異常がある場合、前述の機構が十分機能せず水分や塩分摂取過多になる可能性があります。
心疾患による心機能異常がある場合、水分や塩分負荷によって慢性心不全の急性増悪を来す可能性があります。
また、これらの疾患に罹患していると、医師から水分や塩分の摂取量を制限されている場合があります。そして、重症度にもよりますが、一般的にはこれらの疾患を有している場合においても夏場も塩分を制限するべきであるとされています。
ですがこれはあくまで病院の医師の見解です。病院の医師は患者が一般的な日常生活を送ることを想定しており、職場の暑熱環境下で身体負荷の大きい作業を行うことは想定していません。
熱中症を発症する可能性の高い職場で働く労働者の健康障害リスクをより正確に判断できるのは、職場の作業環境とそこでの作業内容を把握している医師である産業医です。
ですので、腎疾患や心疾患のある労働者を暑熱環境での作業に従事させることが可能かどうかを産業医に判断を求めましょう。
企業には雇入時健康診断や定期健康診断が義務付けられています。なぜでしょう。
その最大の理由は持病を有する労働者が個々の作業に従事することが適当かどうかを企業側が判断するためです。
健康診断結果を受けて、熱中症職場のみならず、様々な有害業務や夜間勤務、出張業務などに労働者が従事することができるかどうかを産業医の意見を踏まえた上で判断することを企業は求められているのです(健康診断事後措置と呼ばれています。)
※なお、熱中症発症に影響を与える医学的要因で注意が必要なものとして、腎・心疾患以外に、糖尿病、利尿剤や一部の精神科領域の薬やパーキンソン病治療薬などがあります。
※常時使用する労働者数50人未満の事業場では産業医の選任が義務付けられていません。その場合は地域産業保健センターに相談してみましょう。
水分・塩分補給のための工夫
作業場や休憩室に補給用の水分・塩分を用意しましょう。
また、衛生委員会メンバーによる巡視も有効です。この時、水分や塩分の摂取を呼びかけてください。
水分摂取をしやすい雰囲気作りのためにも巡視での呼びかけは有効です。
朝食の摂取は熱中症対策として非常に有効です。水分だけでなく塩分を補給することが可能であるためです。朝食を摂取しない方は少なくありませんが、暑い期間だけでも摂取してみることは良いかもしれません。もちろん昼食も抜かないようにしてください。
まとめ
今回は、水分・塩分の補給という側面から熱中症対策を考えてみました。
事業場によって参考になる部分、ならない部分があると思います。自社での対策に繋がりそうな部分を参考に対策を考えていただければ幸いです。