福井労働衛生コンサルタント・産業医事務所


熱中症対策における作業場所と身体部位の効果的な冷却のポイント


〜効果的な冷却方法から考える飲食店や介護施設の熱中症対策〜

以前のブログでも書いたように、業種や第三次産業といった大きなくくりで一般化した熱中症対策を論じることは困難です。

そこで、切り口を変えて、個々の対策に焦点を絞り、注意するポイントをあげることで全体的な対策の参考にしていただくことにします。

今回は効果的な冷却に注目してみたいと思います。

場所の冷却を行う場合のポイント

屋外の作業場

休憩所となる空間を設けます。

休憩所には日除けとなるテントやタープなどを設置するのがポイントです。作業場自体にも日除けを作ることができれば尚良いでしょう。

この時、人が利用する部分の面積ギリギリをテントで覆うのではなく、地面からの照り返しも防止できるよう人が滞在するスペースよりも広めに(最低でも1m数10cm)屋根で覆うことも大切です。

また、可能であればこの休憩室に送風機も設置できると良いでしょう。

休憩所には水分・塩分補給できるよう必要な物品を準備します。

屋内の作業場

屋内作業の場合も休憩スペースは重要です。

この場合の休憩室ではエアコンや扇風機を利用できるケースが多いのではないでしょうか。これらを活用して室温を下げましょう。

水分や塩分補給できる物品を揃えることは屋外の場合と同様です。

また、屋内の場合、熱中症作業場においてもエアコンが利用可能なだけでなく、換気装置が使用できるケースもあるかと思われます。

換気装置は暑熱環境のコントロールにも非常に効果を発揮します。

ただ、換気装置を有効に活用するために、押さえておきたい大切なポイントがあります。

一般的に換気扇と言われている換気装置は労働衛生においては全体換気装置と呼ばれます。

全体換気は別名、希釈換気とも呼ばれます。

有害物質を取り扱う業種では局所排気装置と呼ばれる装置が使用されます。多くの場合は全体換気装置よりも大掛かりでコストもかかりますが、発生源に近接する場所で有害物質などが拡散する以前に高濃度で当該物質を捕捉することで労働者への曝露を予防する装置です。

これに対して、全体換気装置は外部からfleshな空気を取り込み、有害物質や熱などを希釈しながら外部へ排出することで換気を行います。これが希釈換気と呼ばれる所以です。

熱中症対策で利用する場合、室内の高温の空気を希釈することが目的ですので、外部から取り込む空気が室内の温度よりも高い場合は効果が薄れます。

注意点として、私が現場で経験することが多いのは、窓やドアを閉め切って換気装置を稼働させているため空気の流れが低下し換気効果が得られていないケースです。

外部から十分な空気が供給されず流入抵抗が極端に大きな状態で換気を行うと、室内が負圧となり、空気の流れが止まってしまいます。

前述のように全体換気においては希釈が本質ですから、外部から室温よりも温度の低い空気の供給がなくなると換気の効果は得られなくなるのです。

エアコンを使用している場合は換気によってエアコンの熱交換の効率が低下しますので、換気の時間を区切るなどの対策は必要ですが、有効に利用できれば効果が高まるかもしれません。

さらに、私が見てきた中で経験することの多い意外な盲点として、フィルターやファンに長年蓄積した埃などの汚れによって換気装置が十分効果を発揮できていないケースです。この場合は掃除によってすぐに機能を回復できますので、定期的に汚れのチェックを行いましょう。

また、例えば厨房のコンロのようにピンポイントで熱源が存在する場合、遮熱板を使用することも有効です。周囲への熱の輻射を防ぐとともに機械による換気の効率を高めることができるかもしれません。

身体の冷却を行う場合のポイント

心臓から(胸部)大動脈へ駆出された血液は様々な動脈の分岐を経て全身の臓器へ運ばれます。

できる限り中枢(心臓に近い)の大きな動脈の血液を冷却するほど冷却の効果は高く、末梢の動脈ほど血流量が少ないので冷却効果は下がります。ですが例えば(胸部や腹部)大動脈は体表面から冷却することが困難です。保冷剤などで直接冷却できるのは体表面に限られるためです。

ある程度の血流のある太い動脈が体表面近く走る部位は、首・脇・脚の付け根です。

よって、保冷剤をはじめとする冷却グッズで身体を効率的に冷却するには、首・脇・脚の付け根を冷やすのが効果的です。

医療機関の診療においても発熱や高体温で冷却が必要な場合はこれらの部位を重点的に冷却します。

冷却剤を収納できるポケットを備えたベストなども市販されていますので、利用される場合は上記部位を冷却できそうなものを選ぶのが良いでしょう。事業場で自作することも可能かもしれません。作業の妨げになったり、巻き込みなどの事故が起こらないような装備にしましょう。

また、作業中に労働者を冷却するのが困難な場合は、当該作業に入る前にプレクーリングを行うことも有効です。前述の休憩室を有効活用しましょう。

まとめ

熱中症対策を一律に論じることは困難ですので、今回は冷却にスポットを当ててポイントを考えてみました。

事業場によって状況は大きく異なるため全ての対策を採用することは難しいと思います。上述のポイントを参考に各事業場で有効な熱中症対策を考えましょう。

事業場内では対応が困難な場合は専門家にご相談ください。弊所では労働衛生工学区分の労働衛生コンサルタントが第三次産業の熱中症対策を強力にサポートします。

お問い合わせはこちらから。

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